槍ヶ岳 北鎌尾根~焼岳縦走 2日目(2) 独標~穂先
たしかにそうだった。いたるところにあるトラップのような踏跡。跡があるからこっちかと思って行くと、その先は断崖絶壁だったり。トラバースの途中でも、踏跡が切れているところもあった。
最近は稜線沿いにピークを越えて行くのが主流なようなので、自分もピーク沿いに行くが、先がわからない岩登りは本当に恐かった。軽量化のため脱出用のハーケン・ハンマーは持ってこなかったし、ロープも申し訳程度の長さしか持ってきてなかったので、この先ドツボにはまって下りられなくなるんじゃないかという、極度のストレスを常に感じながら進んだ。

こんなピークをひたすらアップダウンした。
(このエントリは 「槍ヶ岳 北鎌尾根~焼岳縦走 2日目(1) P9手前~独標」 からの続きです)
そんな風に常にストレスをためつつ歩いていたが、雲の中からたまに顔を出す槍の穂先に元気づけられた。

穂先が見えては…

隠れ…

また見える…
テン場を出発して4時間20分、ようやく北鎌平に着いた。前回来たときよりも時間がかからなかったような気がする。前回は 「まだかまだか」 という感じだったが、今回は 「あれ?もう北鎌平?」って感じだった。
出発してから水分補給だけでエネルギー補給はしていなかったので、ここで大休憩をとることにする。最後の登り、そして核心のチムニーがあるので、シャリバテだけにはならないように。

北鎌平から登って来たピークを見下ろす。右が独標?
休憩しながら自分が登ってきたルート、そしてこれから登るルートを眺めた。うまく行けば、これで単独北鎌も終わってしまう… ちょっと名残惜しいような…
そんな気持ちを振り払って立ち上がり、最後の登りを開始した。しばらく歩くと、人の声が聞こえてきた。山頂にいる人の声かな、と思って上を見ると、2人ほど人が取りついているのが見えた。ちょっとショックだった。独りだけの北鎌尾根のつもりだったのに。しかも今日の初登を奪われてしまうとは… (←ほんとは全然気にしてないけど)
万が一落石されると、翌々日の新聞に 「美人OL、槍ヶ岳直下で落石にあたり死亡」 と載ってしまうので、先行パーティが山頂に着くまで待つことにする。再び大休憩。写真を撮りまくり、口笛を吹きながら自分が登ってきた尾根を眺める。
この北鎌平にテントを張れたら最高だな。北には北鎌尾根下部の独標やその他のピークを見下ろせるし、南には槍の神々しい穂先を見上げることができる。ほんと最高のテン場だ。いつか天気がいい日に、本当にここにテントを張りたい。

さて、いよいよ最後の登攀開始。
人の声がしなくなり、人影もなくなったので、最後の登攀を開始する。核心のチムニーまではたしか階段だったはず。さかさか登っていくと、なんと先行パーティはまだ山頂に着いてなくて追いついてしまった。男女のペアで、女の人が先に登って、男の人が下であっちだこっちだと指図している。かなり慎重に登っているようだ。チムニーまでは階段状でどこでも登れるので、あいさつをして脇からそっと抜いた。
あとでわかったことだが、山頂直下には2つのチムニーがあるらしい。下のチムニーは簡単で、上のチムニーはちょっと難しい。下のチムニーは巻くことも可能。自分は先行パーティが下のチムニーを登っていたところ、右から巻いて抜いてしまったようだ。基本的には本能に従って簡単なところ簡単なところを登ってるので、なんであんな登りにくそうなところを登っているんだろうと思ってたら、そうか、下のチムニーだったのか。
先行パーティを抜いて、山頂直下のチムニーに到着した。今回、このチムニーをフリーソロで登るために軽量化してきたと言っても過言ではない。前回は重いザックを背負っていたので(と言ってもせいぜい15kg弱だが、自分的には体重の1/3)、フリーソロで登るのが恐くてロープを出したのだから。

頂上直下、上のチムニー。
現在のザックの重量は、昨日の夕食、今朝の朝食、今日の行動食の一部、そして水がなくなっているので、8.3kgぐらい。計算どおり、体重の約5分の1になっているので、筋肉量が少なく非力な自分にとってもかなりラクなはずだ。
核心を越える準備として、ザックのサイドポケットに入ってたペットボトル、チェストストラップについていたデジカメなどの岩にひっかかりそうなものをすべてザックに入れた。これで準備万端。
さっき抜いた2人組のパーティはまだ来ない。核心を登っているときに追いついて見られたら緊張してやだな、と思ったので、彼らが来ないうちに取りついた。
チムニーは、中に入ると手がかりも足がかりも何もなさそうに見えたので、中に入らず右側を登った。右側には小さい自分でも手が届くところにガバがあり、それをうまく利用してチムニー沿いに簡単に登ることができた。もうちょっとザックが重くても大丈夫だったかも。
チムニーを抜けて3mほど上がったところで、下のパーティがチムニー基部に現れた。あらためてあいさつし、昨日はどこに泊ったのか聞いてみた。P12?って言ってたかな。湯俣からなのかな?このパーティはチムニーでロープを出すようで、自分がかなり上に行っても登ってこなかった。
上のチムニーを越えると、すぐ頂上。人がいるのが見えた。
ずっとやりたかった単独行北鎌尾根も終わってしまうんだ。
そして、ほこらの裏側から、ぽっかりと山頂に出た。

「槍ヶ岳 北鎌尾根~焼岳縦走 2日目(3) 穂先~南岳小屋」 に続く。
自分メモ
所要時間
天狗の腰掛(P9)手前テン場6:07 独標のコル7:06 トラバース緑のロープ・オーバーハング通過 偵察7:25~31 独標7:55~8:00
P11? 8:19~27(休憩) 左側のザレを下ったとこにテン場8:40 衣服調整9:00~06 Pを越える Pを巻く ガス10:14 テン場 北鎌平10:30(エネルギー補給・休憩) プレート 人が山頂直下にいるので休憩11:02~15(エネルギー/水分補給) 山頂11:40~45?
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COMMENT
祠の裏から山頂なの?
どんな岩をどんなかっこうで登ったのか、私には知る由もありませんが・・
山頂付近のルートを覗いたら落石がおこりそうな場所でしたね。あんなところをずっと登るの?気が抜けない緊張の連続でしたね。
自分が見た場所の山だから、なんとな~くですが、頭に入ってきます。

祠の裏から山頂です。
たぶん。
私は2回ともそっから出ました。
私が選んだルートなので、たぶん一番簡単なところでしょう。
> どんな岩をどんなかっこうで登ったのか、私には知る由もありませんが・・
肩の小屋から登る槍までのルートに、鎖・はしごが一切ないとイメージしていただければいいかと思います。
他の人の記録を見ると落石は結構起こってるみたいです。
私のときは幸いありませんでしたが。
> 自分が見た場所の山だから、なんとな~くですが、頭に入ってきます。
独標、北鎌平なんかはきっとわかると思います。
そして事故が無くて本当に良かったな。
先行チームを避けるなどの判断の賜物ですね。
ドキドキ、でも読むのは面白い!
てるさんにとってはついでの、
大キレットと
ジャンダルムも楽しみにまってます。
直下のチムニー、画像では解り難いですが実際取付いてみるとかなりデンジャラスなんですか!?
でも、もうすぐ終わるんですね!
事故なくて良かったです(^。^)
最後のレポ又見に来ます!
>ドキドキ読んじゃいました。
食う寝るさんも言ってるけど、読んでいるものにとっては状況がわからないだけに、余計にドキドキしちゃうのかも?
輝ちゃんはきっと淡々と記録として書いているのだろうけどね。。。。
でも本当に無事でよかった。。。。
新聞に「

そっかな?
食う寝るさん、アルパインやるんじゃないの?
それはおいといて、食う寝るさんにおすすめなのは北鎌平のキャンプです。
景色サイコーです。
景色を肴に飲めるので、つまみ、まったくいりません(笑

ゴジラの背は北穂東稜にありますね。
ほんとはそこも今回登るつもりだったんだけど、
天気の都合のよりカットしました。
ジャンダルムは未登だったんですよ。
前は天気が悪くて巻いちゃったので。
今回、初登頂でした。
円周の計算が必要なところ、わかりました?

上のチムニーは、そうですね、、、Ⅲ+ぐらいかなぁ…
最近、岩やってないから、体感グレード忘れちゃいました。
落ちてもたぶんテラスで止まると思うので、それほど怖くはないです。
北鎌のレポは次で終わりですが、その先、大キレット・奥穂・西穂・焼岳への縦走がまだまだ続きます。よかったら最後まで見てやってください。

書いてはおりませんが、足元が崩れて「ファイトォ!いっぱぁつー!」みたいなときもありましたよ(笑
そんなのも書けばもっと手に汗握ったかな(笑
本当に無事に踏破されて、おめでとうございます。スタミナが備わったみたいで、ジョグの練習の成果も出たみたいですね。
きっと猿みたいに登ってったんだろうなあ。
自分には一生縁のないコースだけど、身近な人が登ってるの読むと、ふむふむってやっぱりおもしろいね。

どうもありがとうございます。
そちらもハセツネ完走、おめでとうございます。
> やっぱり最初は誰かと行ってコース覚えないとコース取りが難しそうですね。
どうなんでしょう?
私は頭が悪いので、コース取りなんか覚えてませんでしたが(笑
でも、一回目は誰かと行って、地図とかにいろいろ書き込めばいいかもですね。
自分はそこまでやっちゃうのは面白くないと思うのでやらないと思うけど。
ってか、めんどくさいっていうのが一番の理由(爆
> 最後のチムニー、あれも怖そう。
あれはそれほど恐くないです。落ちたらテラスで止まると思うので。
切れ落ちたトラバースとかのほうがもっと恐いです。
まあ、恐いと思うところは個人差が大きいですよね。
> 何よりも軽量化がポイントみたいですね。
それは私のように非力な人に限るかも。
あと、体力がない人は、軽量化すればするほど疲れないからいいと思います。
力も体力も自信あるぜ!って人は30kgのボッカでもなんでもしてくださいってかんじ(笑
いやー、いいなぁ。
30kg担いで北鎌行けたら、私は北鎌平で4日ぐらい停滞して宴会しますよ。
> スタミナが備わったみたいで、ジョグの練習の成果も出たみたいですね。
そうですか?どこらへん読んでてそう感じました?
前回もそれほど疲れなかったので、自分的にはジョグの成果が出てるかどうかはわかりませんでした。
むしろルートファインディング力が上がったなぁ、と思いました。
ここしばらくアルパインルートなんて行ってなかったのに。
まあ、たぶん運がよかっただけだと思いますけど(笑

> 自分には一生縁のないコース
そうかな?
ぜぜさんは沢登やってるから縁があると思うけど。
ルーファイとか沢登りやってればばっちりだと思うし、ザレた場所の通過なんて沢のツメそっくりですよ。
あとは、水俣乗越からのゴーロ歩き、北鎌沢の登りなんかも、沢をもうちょっとまじめにやってればもっとラクだったのになーと思いました。草付きを利用した登りなんかも。
興味あったらぜひ挑戦してみてください。
てる (08/25)
mima (08/24)
てる (12/24)
KMD (12/24)
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