谷川連峰 仙ノ倉北尾根~谷川岳縦走 1日目
山はもうやめようかぐらいに思っていた。
というのは、2月の頭にハーフマラソンに出て以来、ジョグにはまってしまい、
そちらの方が断然面白くなってきたから。
2月、3月と走ったら、たいした走行距離でもないのに(月間約130km)、
すぐに体に変化が出てきた。
どんどん体重・体脂肪量が落ちてランナー体型に近づいていく。
タイムも練習を重ねるごとに微妙ではあるが速くなっていく。
もとから最大酸素摂取量もBMIもトップアスリート並みだし。
それに比べて山なんて、かれこれ5か月間トレーニングしてても
全然アルパインクライマー体型にならない。
重い荷物も全然担げるようにならないし、瞬発力もつかない。
高所恐怖症も完全には治らず、これってときの思い切りができない。
クライマーにしてはそんなかんじでダメダメなので、
適材適所で長距離ランナーになろうかなんて真剣に考えていた。
山をやめてラン1本でトレーニングしたら、もっと速く走れるようになるだろう。
それに山と違って命の危険があまりないので、
山に対して理解のない、年老いた母親も心配することはないだろう。
そんな風に思っていた。
そんなんなので単独で山に入ることはもうないかと思っていたのだが、
やっぱり自分は山が好きだったみたい。
最近は外ジョグの楽しみを覚えてしまったので、
ジムのトレッドミルで走るのが苦痛になってきたのだが、
そんな退屈なトレッドミルでのトレーニングのとき、
山のことを考えるとアドレナリンが放出して、走れる、走れる。
むいてなくても自分ってやっぱり山が好きなのか…
ってなわけで、いそいそとパッキングして山に出かけて行った。
谷川連峰仙ノ倉北尾根へ。

おそろしく長いので隠します。
日本200名山らしい。
そこにつきあげる北尾根は初級の雪稜バリエーションルート。
以前、大雪のため取り付きさえも行けず敗退したことがある。

今回歩いたルート。
仙ノ倉北尾根から万太郎山、谷川岳と歩き、西黒尾根から下山した。
青い線は一般登山道。
この北尾根というと、2006年3月に中高年の山岳会で遭難事故があり、2人の死亡者が出たのが自分的には記憶に新しい。というのは、ほぼ同じ日程で、仙ノ倉北尾根とは反対方向の大源太山から平標をめざして自分達も登っていて、あまりの悪天のため当初の計画を断念してエスケープルートから下山したからだ。
たしかにあの日はすごい風と雪だった。気温はそれほど低いとは思わなかったが、とにかく風が強かった。ザックを下ろしたらその背中が一瞬で湿った雪だらけになったり、数メートル先を行く先行者のトレースがあっというまに雪と風でかき消されたりした。
この遭難事故に興味がある方は、『山と渓谷 2007年 2月号』 に詳細が掲載されているので、よかったらどうぞ。
そういった背景があるので、北尾根はある意味ちょっと恐いなと思ってたのだが、数少ない電車のみで行ける初級ルート。マイカーは持ってないし、バスは酔うのであまり使いたくないという自分には、非常に捨てがたい貴重なルートなのだ。だから単独で行けそうなルートリストに密かに載せていた。
そんな4月のはじめ、天気予報を見ると、今でこそ雨は降っているが、その後は全国的にずっと晴れ。幸いなんとかやりくりすれば3~4日間、時間も作れる。これはチャンス。と、下調べもそこそこに、単独で行けそうなルートリスト最上位にある仙ノ倉北尾根に、意気揚々と出かけて行った。
が、天気の回復が遅れていて、現地の土樽駅は朝になってもまだまだ雨。しょっぱなから数時間停滞となる。駅を出発したのは雨がようやくやんだ10時半過ぎだった。遅っ。
駅からしばらくは車道。
そして毛渡沢沿いの雪が積もった平らな林道に入って行く。
先行者がいるらしく、スノーシューの跡がしっかりついていた。その上を坪足歩行。このトレースがなかったらいきなりここでわかんを履いていたことだろう。ども、ありがとうございます。
しばらく歩いて行くと左手に小屋が。昭文社の山と高原地図 に載っている、車を10台止められるというゲートなのか。しかし、10台は止められそうに見えない。雪が積もっているせいか。
それからまた歩き続けて行くと、前方左手にすごく立派な堰堤が現れた。しかも頑丈そうな吊橋がある。これが噂の北尾根の取り付きの吊橋か? と思って近寄ってみる。もしその吊橋なら、近くに群大ヒュッテがあるはず。が、いくら探してもない。

堰堤の立派な吊橋。これなら簡単に渡れそう。
ここで 昭文社の地図 ではなく地形図を見てみる。堰堤も地図にちゃんと載っている。どうやら問題の吊橋はもうちょっと先のようだ。スノーシューのトレースは別の方向に向かっていったので、わかんを履く。
10分ほどわかんをつけてさくさく歩いて行くと、
あった!!! 冬季は板が外されているという問題の吊橋が。
近寄ってみると、ちっちゃ!!!
想像していたものよりもかなり小さかった。
これだったら楽に渡れそう。

ちっちゃい吊橋。40Lのザックと比較してみて。

実際はこんなものを想像していた。
じつは、自分的には、この山行の一番の核心はこの吊橋を渡ることだと思っていた。なぜかというと、自分は以前、けっこう重症な高所恐怖症だったから。昔は椅子の上に立っても足が震えたものだった。岩をやるようになってからだいぶ治ってきたのだが、やっぱり下が見えて揺れる吊橋は苦手。
なので、この吊橋対策に、超軽量化してザックの重量を体重の3分の1よりも軽くおさえたのだった。この時期、吊橋が雪でつぶれないように板が外されているというので、万が一足を踏み外した場合、自分とザックの重量に両腕で耐えるために。
というように準備万端で、最大の核心に取り付いた。吊橋の手すりのワイヤーをつかみ、さらに足を足元のワイヤーの上に乗せようとしたら、今まで乗っていた足場の雪が崩れた。自分の体重+ザックの重さに両腕が耐えられず、20cmほどだけど真下に落下。超軽量化、意味なし!!! むしろ何か月も前から筋トレをしていた方がよかったかも。っていうか、この山行を計画したのって2日ぐらい前のことだから無理だし。
ザックを背負った自分を両腕で支えられないことがわかったので、絶対に足を踏み外せなくなった。また取り付く。うまくワイヤーの上に乗ったが、足場がぐいーんと伸びてこれ以上にないくらい開脚。たぶん普通の人ならこれくらいの開脚は平気なのだろうが、自分は体が硬いのでもういっぱいいっぱい。もし橋のど真ん中でこのような状態になり、動けなくなって落下すると困るので、吊橋を渡るのはやめることにした。

恐怖の股裂けの図。
で、渡渉に切り替えたわけだが、はっきり言って全然できた(爆) 前日に雨が降っていたにもかかわらず、増水もしてなかった。ああ、せっかくの超軽量化はなんだったのか。こんなことならもっと食糧や、暖かい寝具を持ってくればよかったと後悔。
この山行最大の核心をクリアーはしたが、次に立ちはだかるのは第二の核心。それはどこから北尾根に取り付くかということ。オンサイト狙いだったのでみんながどこから取り付くか調べていなかった。地図を見て、だいたいここらへんから取り付けばいいやぐらいに思ってただけ。

北尾根取り付き詳細図。クリックすると拡大。
どこから取り付こうかとあたりを見回していると、わかんのかすかなトレースが毛渡沢に並行して続いているのを発見。「なぜ沢沿いに?」 とは思ったが、とりあえず使わせてもらおうとその跡をたどっていく。が、途中から 「完璧に違うだろ、これ」 みたいな状態になったのでトレースを離れ、地図を見ながら適当なところで北尾根に取り付いてみた。
取り付いてみると、途中からかなりの急斜面になった。しかも溶けかかった雪がぐずぐずで、登っている尾根と並行している沢には雪崩の跡がたくさんあった。恐いので一刻も早く登ろうとするが、なにしろ急斜面の一人ラッセルなのでなかなか進まない。そのうち斜面は更に急になり、いつのまにか雪崩の跡の上を登っていた。比較的安全な尾根に移りたいのだが、そうするにはもっと危険な谷をトラバースしなければならないので、やむをえずこのまま登った。もう緊張で汗びっしょり。

どこらへんから取り付いたかはもう一回こちらをどうぞ。クリックすると拡大。
登りつめたところが北尾根上だった。トレースはない。やはりさっきの沢沿いに続いていた踏跡は、北尾根に向かうものではなかったようだ。地図で現在地を確認し、そのまま登り続けた。
しばらく登ると、小屋場の頭というところに到着した。
高度は1,182mで、シッケイの頭がよく見える。

右はじのピークがシッケイの頭と思われ。
時間は15時で、もうちょっとぐらい歩けそうなのだが、見上げても地図を見てもこの先いいテント場所が見つかるとも思えない。それに超軽量化のためお粗末な寝具しか持ってきてないので、高度を上げると気温が下がるので、なるべく低いところでテントを張りたい。ってことで、今日の行動はここで終わりにして、シェルターを設営することにした。それに先に行くと前述した山岳会の遺体発見現場により近くなるし。
小屋場の頭には雪庇があったので、それを利用して雪洞を掘ることにした。1時間ほど掘り続けたが、手袋はびしょびしょになるし、腰は痛くなるし、飽きるしで、完全な雪洞を作るのはやめた(爆

1時間掘り続けてちっちゃい雪洞が完成。

シェルターを中に張ってみた。でも、足だけしか入らない。
シェルターはほんとはこんな形: アライテントビビィシェルター

頭だけ出てる。ってことは雪洞は150cmしか掘れなかったのか(笑
ビビィシェルターのサイズに関してはこちらを参照。

テン場から見た夕日。山は、真横に見えていたからたぶん二居俣ノ頭か。
半雪洞内にシェルターを張ったおかげで、風はばっちりよけられた。しかし寒さは全然防げなかった。まだまだ標高1,100m程度だというのに、寒さのあまり夜中に起き出し、温かい飲み物を作って飲まなければ寝直すことはできなかった。
一番ひどかったのは地面からの冷気。いつもはテント内に銀シートを敷いて、上半身はサーマレストのリッジレスト レギュラーを半分に切ったもの、下半身はザックとその上にザックカバーに詰めたザックに入っていたものを敷いてるだけで平気なのだが、今回は銀シートを軽量化のためカット。それだけで上半身は寒くなった。シュラフを夏用にしたせいももちろんあるだろう。シュラフの背中の部分はダウンがつぶれてるとは言え、やはり防寒にはなっていたようだ。
あまりにも寒いのでリッジレストの下にスパッツを敷いて、シュラフの上からかっぱを着、その上からシュラフカバーをかけて寝直した。しかし、それでも寒くてほとんど眠ることはできなかった。
気温はどれくらいだったかというと、足元のザックカバーに入れておいた2.5Lのプラティパス内の1Lの水が凍らなかったくらい。普通の人だったらそれほど寒くはないはず。シングルウォールのシェルターの壁は朝起きたら凍りついていたわけでもなかったし。
そんなかんじで、仙ノ倉北尾根上のさむーいさむーい夜を過ごしたのだった。
「谷川連峰 仙ノ倉北尾根~谷川岳縦走 2日目」 へ続く。
関連エントリ






関連商品
![]() | 山と渓谷 2007年 02月号 [雑誌] (2007/01/15) 商品詳細を見る |
![]() | 谷川岳苗場山・武尊山 2009年版 (山と高原地図 16) (2009/02) 商品詳細を見る |
![]() THERMAREST(サーマレスト) リッジレスト(レギュラー) グリーンXグレー(底面) 30031 | 商品詳細を見る |
![]() | プラティパス2 (2.5L) 25601 商品詳細を見る |
![]() | ARAI TENT(アライテント) ビビィーシェルター 370930 商品詳細を見る |
COMMENT
書き出し前文 ちょっと青ざめましたよ。(山ヤメチャウノカナ?)と。 ガチャピンさんの記事では失礼しました。その後 山と渓谷か岳人にも同じ様な記事が掲載されいていましたね。 三年前の遭難事故はここだったのですか。平標新道だと思っていました。覚えています。あるサイトで検証していましたから。それに割と近くなので(南側の県)
<縦走の計画でもあるのですか?
とんでもありません! そんなスキル持ち合わせていません。アイゼンすら無いのですから。
行くならゴールデンウィークの爺ヶ岳南尾根長靴登山です。はい! 続編 期待しています。!!

>山と渓谷か岳人にも同じ様な記事が掲載されいていましたね。
はい、私も見ました。
やっぱりガチャピンは偉大です。
> 行くならゴールデンウィークの爺ヶ岳南尾根長靴登山です。
この前の土日、爺の東尾根を登りましたよ。
天気は無風快晴で素晴らしかったです。
稜線に上がると、南尾根がばっちり見えました。
登りやすそうな尾根ですよね。
谷川縦走の記録にものすごく食い付きがいいのはなぜなのでしょうか。
ここらへんの山域に思い入れがあるとか?
昨年の夏にお会いしたてるさんとは別人ですね。
私にとって仙ノ倉北尾根はあの吊橋の写真をはじめとして、難しい~イメージがありますよ。
続編が楽しみです。
夜の寒さの苦労がわかります。
銀マット省略は効きますね~!耐寒訓練!

室内クライマーだったらまだ山に関係してるからいいじゃないですか。
冬山ソロは私も寒さに弱いので自信ないです。
せいぜい春山ソロぐらいしかできないです。

えーと(笑
文脈からすると、昨年の夏の私は今よりさらにヘタレで、北尾根になんか行く計画なんてたてそうもないってことかな。
それとも吊橋が一番の核心なんて変わってるってことかな?
ってか、高所恐怖症の人にとって、吊橋ってすごいこわいものなんですよ。揺れるし、下見えるし。人が渡っているのも見たくないってかんじなんです。
あと、若葉さんとはフリークライミングのゲレンデでしかお会いしたことがないはず。私はフリーは全然やってないので、かなりヘタレです。って雪山でもヘタレなんですが、フリーよりは少しましなんです。

このように寒い夜を過ごすと体脂肪量が3日で1kg減少します!
hiroさんもぜひどうぞ!
私は雪山ヘタレなんで吊橋の写真を見ただけで、行けるイメージではないのです。
なんと言ったらいいのか・・・
自分はひとりで行ける所ではないと思っていました。

こちらこそごめんなさい。
読解力なくて。
吊橋は記録のように渡渉できることもあるので大丈夫ですよ。
あとは適当にさくさく登るだけ。
ロープもいらないと思うし。
天気がいいとこれから登って行く尾根がきれいに見えるので、
わたし的にはおすすめのルートです。
山頂からは谷川連峰の山容もきれいに見えるし。
てる (08/25)
mima (08/24)
てる (12/24)
KMD (12/24)
てる (11/25)